労働審判を申し立てられたら

突然、裁判所から労働審判手続申立書が届き、戸惑われて当ページをご覧頂いているものと思料致します。

仮に、労働審判手続申立書に記載された請求内容が、明らかに不当と思われるものであったとしても、裁判所からの呼出しを無視してはならず、期日に出頭し、適切な反論を行わなくてはなりません。労働審判手続という制度には、使用者にとって不利になりやすい要素がいくつかあり、その一つが準備期間の短さです。使用者は、労働審判手続申立書が届いてからの僅か数週間で、争点を的確に把握し、証拠収集等の必要な準備を迅速に行う必要があります。

以下では、労働審判手続の概要、手続の流れ、使用者側が特に注意すべきポイントについて説明します。

労働審判手続とは

労働審判手続は、平成18年4月から始まった比較的新しい紛争解決制度です。
バブル崩壊後の不況の中で、個々の労働者と企業との個別労働関係紛争の件数が増加していく中で、紛争の迅速な解決のために設立されました。

解雇、雇止め、賃金不払い、労働条件の変更など、争点が複雑でない事件や、簡便な手続きでは解決を図りにくいような個別の労働紛争について、各地方裁判所に設置された労働審判委員会が審理を行います。
労働審判委員会は、裁判官である労働審判官1名と、労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2名(使用者側、労働者側各1名)で構成され、審判官・審判員は当事者本人や重要な関係者に対して直接口頭で意見や事実関係を聴取することができます。

制度開始後、件数は年間3500件前後を推移しており、解決までの日数は平均75日程度、解決率も8割前後と高く、紛争の早期解決手段として一定の効力を発揮しています。

労働審判手続の流れ

労働審判手続の申し立て~審理開始

労働審判手続は、多くの場合、労働者側が地方裁判所に労働審判手続の申し立てをすることにより始まります。多くの場合、この時点で労働者側は弁護士に相談をし、証拠を集めた上で申し立てをしています。
申し立てが受理されると、原則として40日以内に第1回期日が指定されます。
企業側は労働審判手続申立書を受け取り、第1回期日に向けて準備を始めます。

審理の終結

労働審判委員会は原則として3回以内の期日で審理を終結します。

3回の期日の中で、労働審判委員会から調停案が提示されることがあり、労働者と使用者の側で調停案の内容で合意ができれば、その時点で労働審判手続が終了します。調停が成立しない場合には、労働審判委員会が審理を終結する宣言をし、労働審判を行うことになります。
労働審判は、それまでの期日において提出された証拠や関係者の話を聞いた内容を踏まえて労働審判委員会が下しますが、労働審判委員会が提示した調停案に近い内容にケースが比較的多いです。

実際には、労働審判手続では原則として調停を試みることとされており、全体の約8割が調停により解決しています。

労働審判への異議申し立て

労働審判は、当事者のいずれかが2週間以内に異議を申し立てなければ確定し裁判上の和解と同一の効力を有しますので、異議が出なかった場合には当事者は労働審判の内容に従う必要があります。

審判の内容にいずれかの当事者が異議を申し立てた場合には、審判は効力を失い訴訟に移行し、通常の訴訟手続きと同様に審理を続けることになります。

労働審判手続における使用者側のポイント

第1回期日の答弁書が最重要

労働審判手続は原則3回の審理で終結します。そのため1回1回の期日が非常に重い意味を持ってきますが、その中でも圧倒的に重要なのが第1回目の期日です。

もともと、労働審判手続を申し立てた労働者は、申立までに弁護士に相談した上で入念な準備をしています。一方で使用者側は、労働審判手続申立書が届いてから証拠や証言を集め始めて、第1回期日までに答弁書を作成しなければなりません

労働審判手続の期日は、労働審判員2名の日程を調整した上で決定されるため、原則延期などの変更はできません。そのため、使用者側は労働審判手続申立書が届いた後の20~30日程度で確実に答弁書を作成し提出しなければならないのです。

その上、第1回目の期日では労働者への質問が2時間ほどされるため、労働審判委員会の心象は事実上その時点で固まってしまうことが少なくありません。

不当な結果を招かないためには、第1回目の期日までにしっかりと証拠等を集め、労働審判委員会にポイントを押さえた主張立証をすることが最重要になってきます。

労働紛争を迅速に解決できるメリットも

タイトなスケジュールでの答弁書作成が求められる一方で、うまく対処することができれば、労働審判手続は使用者側にもメリットの大きい制度といえます。メリットの一つとしては、訴訟と比べて労働紛争を迅速に解決できる点が挙げられます。

労働紛争が訴訟に発展した場合、解決に至るまでには平均で1年から1年半程度かかります。一方労働審判手続では7割ほどが3か月以内に解決しています。

また、労働審判手続を申立てた労働者側の多くは、調停による迅速な解決、和解を求めています。さらに、労働審判委員会も原則として調停による解決を目指しているため、使用者側が正当な理由を述べることができれば、配慮のある(一方的でない)調停案を引き出せることが多いのです。

労働審判手続の特徴をよく知り、適切な対処をすることで使用者側にとっても納得の行く解決を目指すことができます。

弁護士に依頼すべき理由

上記のように、労働審判の手続は非常に早く進行し、使用者に十分な準備と時間が与えられていません。
また、第1回期日で労働審判委員会の心象が固まってしまうことが少なくないため、法的根拠やポイントを押さえた主張立証をする必要があります。

労働審判を
申し立てられた場合には、
争点を的確に把握し、
迅速な準備を行うために、
経験豊富な使用者側
専門の弁護士に
相談するべきです。

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