労働災害(労災)対応に関する事例
安全配慮義務違反による賠償を求める訴訟を解決した事例
- 状況
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工場の自動扉が故障し、これによって従業員が怪我をして休業し、労災申請をした。労災認定はなされたが、被災従業員は、当初の診断書で認められた期間が過ぎても復職しなかったことから、会社は手続きを踏んだうえで被災従業員を解雇した。
ところが被災従業員から、事故によって体調を崩し、長期の休業を余儀なくされたにもかかわらず休業中に解雇されたとして、解雇無効と、安全配慮義務違反による損害賠償を請求する訴訟を提起した。会社は、事故時の状況を詳細に記録しており、これを示して現在の従業員の体調不良と労災事故とは因果関係がなく、また会社としては自動扉のメンテナンスを適切に行っていた事を立証して、正当な解雇であり、損害賠償義務はないとの判決を得た。
- 背景
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工場の事故で従業員がけがをしたことは残念なことであったが、その障害の度合いは軽微であり、被災従業員が主張するような体調不良・長期の休業に結びつくものとは考えられなかった。
- 結果
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裁判所は少額での和解を提示しましたが当該従業員はあくまで多額の賠償を求めて判決となりましたが、会社側の主張が認められ、当該従業員の被った損害は最大で全治1カ月程度の頭部外傷と頸部捻挫であり、労働保険で補償がなされており、会社側の賠償責任はなく、解雇も有効であるとして、全面的な勝訴を得ました。
POINT
工場の衛生を保つための上下式の自動扉が誤作動し、上から降りてきた扉に頭を打って従業員が頭部打撲・頸部捻挫の障害を負いました。
会社は直ちに事故を記録し、従業員の労災申請に全面的に協力し、労働基準監督署への書類の提出も代行しました。
ところが、当初受診した医療機関では「全治1カ月程度の頭部外傷・頸部捻挫」との診断だったのですが、当該従業員は1カ月経過した後も出勤せず、「頭痛が継続しており勤務できない。」「労働災害による休職であり、休業補償給付を受けたい」と連絡してきました。会社は「当初の1カ月については診断書等を得ており問題ないが、その後については診断書他がなければ会社として労災申請に協力できない。」と伝えた所、連絡が途絶えました。その後何度か連絡を試みたものの連絡取れないことから、会社は就業規則にのっとって予告の上、診断書を得ている1カ月の満了をもって休職期間は終了しているものとして解雇しました。ところがその後3カ月ほどして、突如従業員から、現在も治療中で休職期間は継続しており解雇は無効である事を理由とする従業員たる地位の確認と、安全配慮義務違反による賠償を求める裁判が提起されたことから、当事務所にご相談いただきました。
当事務所では、事故時の記録を精査した上で、記録されていた事故を目撃していた従業員にヒアリングを行い、事故の態様を確認すると同時に、当該自動扉についての平素の整備状況を確認しました。又、裁判上で、当該従業員の診療録の提出を求め、これを精査しました。
その結果、(1)事故の態様は重いものとは言えず、当該従業員も事故後独歩して病院に向かい、当該従業員のカルテを精査した結果、X線写真等において骨折等の客観的証拠は認められず、基本的に当該従業員の愁訴のみを理由として全治1カ月程度を要するとする診断書が作成された。(2)治療の継続も、当該従業員の愁訴に基づいたものであり、休業が必要な程度とは認められなかった。(3)当該自動扉は専門の業者に依頼して定期的にメンテナンスを実行していた。ことが判明したため、訴訟において(1)~(3)により会社側に賠償責任はなく、また労災事故から1カ月経過以降の当該従業員の休業は労働災害による休業には当たらず、解雇は正当である旨主張しました。