定年後再雇用の際の同一労働同一賃金に関する最高裁判所の判断について
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第9条では、65歳未満の定年を定めている事業主に対し、①65歳まで定年年齢の引き上げる、②65歳までの継続雇用制度の導入、③定年制の廃止のいずれかの措置を講ずることを義務付けており、その経過措置も2025年3月31日で終了し、2025年度(2025年4月1日)からは、どの事業主も上記①ないし③のいずれかを選択し実行する必要があります。
そのため、最近では、事業主から定年後再雇用についての相談を受けることが多く、特に同一労働同一賃金の観点から、「定年後再雇用者の労働条件をどうするべきか」との相談が多いです。
従前は、定年後再雇用となった場合には、現役時代と比較して賃金が大きく減少するのが当たり前であり、現在も、現役時代と変わらない労働条件での定年後再雇用を実施している企業は少数派であると思われます。
この点、同一労働同一賃金の観点からは、現役時代と変わらない労働をしているのであれば、現役時代と変わらない賃金を支払うべきというのが大原則です。
しかしながら、実際に検討を始めると、一括りに「賃金」と言っても「基本給」のみならず「各種手当」「固定残業代」「賞与」など様々な項目があり、これら全てを現役時代と変わらない金額とするべきなのか、「休暇」「福利厚生」に差をつけてはいけないのか等々、様々な疑問点が生じてくると思います。
そこで以下では、定年後再雇用の際の同一労働同一賃金に関する最高裁判所の判断を概説し、定年後再雇用者の労働条件を検討するに当たっての判断基準をご紹介します。
同一労働同一賃金に関しては、2018年以降、非正規労働者との格差に関するものも含めて、ハマキョウレックス事件(最高裁判所第二小法廷平成30年6月1日判決)、長澤運輸事件(最高裁判所第二小法廷平成30年6月1日判決)、日本郵便事件(最高裁判所第一小法廷令和2年10月15日判決)、大阪医科薬科大学事件(最高裁判所第三小法廷令和2年10月13日判決)、メトロコマース事件(最高裁判所第三小法廷令和2年10月13日判決)と短期間で多くの最高裁判所の判断が示されています。
そして、2023年7月には、定年後再雇用の場合の基本給についての判断が示され(名古屋自動車学校事件、最高裁判所第一小法廷令和5年7月20日判決)、定年後再雇用の場合の最高裁判所の基本的スタンスが明確になりました。
名古屋自動車学校事件では、嘱託社員として定年後再雇用された従業員が「仕事内容は定年前と変わらないにもかかわらず、基本給を4~5割程度減額したのは不合理で違法」と主張しました。
これに対して、第一審の名古屋地方裁判所、第二審の名古屋高等裁判所は、再雇用後の賃金は「生活保障の観点からも看過しがたい水準」とし、基本給が定年前の6割を下回る部分は「不合理な格差」であると判示しました。
しかしながら、最高裁判所は、「基本給格差が不合理かどうかは、当該会社における基本給の性質や支給目的を踏まえて検討すべきところ、原審ではこの点の検討が不十分であった」と指摘し、第一審・第二審の上記判断を破棄し、審理のやり直しを命じました。
この名古屋自動車学校事件の判決から、最高裁判所は、同一労働同一賃金に反するかどうかは、「性質」や「支給目的」を踏まえて判断するべきとの基本的スタンスであることが読み取れます(最高裁判所は、同一労働同一賃金に関する別の判例でも同じ趣旨のことを指摘しています)。
更に進んで、第一審・第二審で重視された「生活保障」「定年前の6割を下回るかどうか」といった要素をどう考えるかは解釈が分かれるところですが、少なくとも決定的な判断要素ではないことは明らかであり、定年前の6割を下回る賃金であっても適法と判断される余地はあるものと考えます。
以上の最高裁判所の基本的スタンスを踏まえますと、定年後再雇用者の労働条件を検討するに当たっては、賃金その他労働条件の「性質」や「支給目的」から検討することが何よりも重要であると言えます。
換言しますと、「性質」や「支給目的」から合理的な説明ができることが重要であり、単に割合(現役時代と比較してどの程度減少したか)や手当の名称で形式的に決まるものではありません。