• 弁護士コラム

子がいない夫婦の相続対策について

1 はじめに

近年、相続分野は法務・税務ともに大きな法改正が続いていまして、平成27年の相続税法改正(基礎控除の引き下げ等)、平成31年の民法(相続法)改正、そして先日には、令和5年度の税制改正に向けて、生前贈与の持ち戻し期間の延長等が自民党税制調査会で議題に上がったとの報道がなされました。

近年のこのような大きな法改正、その報道を受けて、生前の相続対策に関心を持つようになった方も少なくないと思います。

そこで、今回は、「子がいない夫婦」の生前の相続対策について解説させて頂きます。

 

2 相続対策をしなかった場合にどうなるのか

まず前提として、子がいない夫婦が、何も相続対策をしないで相続を迎えた場合に、どうなるのかを説明します。

 

誰が相続人になるかは、民法で規定されています(民法で規定された相続人を「法定相続人」といいます)。

まず、亡くなった方(「被相続人」といいます)の配偶者は常に相続人となります。

そして、配偶者とともに、①子、②子がいない場合には親、③子も親もいない場合には兄弟姉妹が順次相続人となります。

ここでは、①子、②親、③兄妹姉妹と書きましたが、民法の規定は少し複雑で、次のように順位が規定されています。

第1順位 子→孫→ひ孫 被相続人の直系卑属

第2順位 親→祖父母→曾祖父母 被相続人の直系尊属

第3順位 兄弟姉妹→甥・姪 被相続人の兄弟姉妹

 

以上から、子がいない夫婦の場合は、配偶者だけではなく、義理の両親もしくは義理の兄弟姉妹が必ず法定相続人になることになります。

換言しますと、これまで夫婦で居住していた自宅、夫婦で貯めた金融資産の一部を、義理の両親もしくは義理の兄弟姉妹が取得することになってしまいます。

 

3 子のいない夫婦には相続対策が必要不可欠

多くの子のいない夫婦では、夫が死亡したら妻が、妻が死亡したら夫が、すべての資産を引き継ぐことを前提に、ライフプランを設計していると思います。

そうであるにもかかわらず、義理の両親もしくは義理の兄弟姉妹が権利を主張し、例えば自宅の売却を求めたり、当面の生活費である金融資産の分配を求めたりしてくれば、残された配偶者は途方に暮れてしまいます。

 

そのような事態を避けるためには、配偶者にすべての遺産を相続させる旨の遺言を作成しておくことが有効になります。

法定相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合には、上記遺言を作成しておくことによって、兄弟姉妹の取り分をゼロにすることができます。

法定相続人が配偶者と両親の場合には、両親には遺留分(法律上認められる最低限度の取り分)が認められていますが、本来支払わなければならない金額(法定相続分)の2分の1に抑えることができます。

 

以上のとおりですので、子のいない夫婦では、お互いに配偶者にすべての遺産を相続させる旨の遺言を作成しておくことが必要不可欠になります。

 

4 まとめ

子がいない夫婦では、お互いに配偶者にすべての遺産を相続させる旨の遺言を作成しておくことが必要不可欠と述べましたが、これは高齢の夫婦のみならず、若い夫婦でも同じです。

特に、若い夫婦では、両親が存命の場合も多く、残された配偶者と義理の両親との間で紛争となるケースも少なくありません。

 

遺言作成は、公正証書で作成する場合であっても煩雑な手続・作業ではありませんので、本コラムをお読み頂いてご不安になった方は、一度弁護士にご相談頂くことをおすすめします。