癌の見落としによる生存率の低下に対する賠償(400万円)を認めた判例について
【事例】
原告が、被告府中市の開設するA医療センター(以下「医療センター」という。)において健康診断を受けたが、医療センターに勤務する被告Y1医師(以下「Y1医師」という。)が胸部レントゲン写真(以下「胸部Xp」という。)の肺の陰影を見落としたことが原因で肺ガンの発見が遅れ、手術が1年間遅れたために肺ガンが進行し、手術で腫瘍は摘出したものの1年前に手術を受けた場合と比べて5年生存率が低下したとして、被告Y1医師に対しては民法709条の不法行為、被告府中市に対しては民法715条の使用者責任あるいは診療契約に基づく債務不履行責任に基づき、損害賠償と不法行為の日である平成14年9月25日から支払済みまで民法所定年5分の割合による損害金の連帯支払を求めた事案です。
【判決】
裁判所は、1年前に診断がついた場合はT1N0M0でStageⅠで5年生存率は72%と推定され、実際の診断時にはT2N1M0(StageⅡB)であり5年生存率が30%低下したことは認めた上で、手術自体は成功し、判決時まで再発等も認められていない事から、仮に1年前に診断がなされても同程度の摘出手術が必要であったと考えられるとして、身体障害に対する慰謝料や、経済的損失に対する慰謝料は否定しました。その上で死への不安や恐怖が増加したことについての精神的損害の慰謝料として、一切の事情を考慮したうえで、400万円(+弁護士費用50万円)の賠償を認めました。
【コメント】
癌の見落とし(誤診)は思われているよりもずっと頻度の高い医療過誤ですが、見落としから正しい診断がなされるまでの期間がそれほど長くない場合には、見落としによって死亡等の決定的な結果が生じたとまでは言えず、「5年生存率が〇%程度低下した」という確率的影響に留まる事は少なくありません。この場合の賠償額の算定は難しいのですが、概ね300万円~500万円の範囲で和解・判決がなされる事が多い様に思われます(当事務所でも同程度の和解例を扱っています。)。尚、死亡自体の慰謝料は2000万円程度とされていますので、裁判所がそう考えてことか否かは不明ですが、後付けの理屈的には 2000万円×30%×2/3 という計算になっています。
ご自身もしくはご家族が不幸にして癌を見落とされ、癌が進行して生存率が下がったと思われる事案に遭遇してしまいましたら、当事務所にご相談いただければと思います。